医師紹介
僕は患者である子どもたちの写真を撮ります。電子カルテのためのものですが、写真に写った一人ひとりの顔を見ていると、子どもたちのみなぎる生命力を感じ、思わず笑みがこぼれます。
僕のもとを訪れる子どもたちは具合が悪くてやってくるのですから、気持ちが悪い子はいまにも吐きそうな顔をしているし、熱がある子は頬を紅潮させて目をうるませています。そんな写真を見て「みなぎる生命力」というとピンとこないかもしれません。でも、不調で苦しそうな顔の向こうに、懸命に自分の体を治そうとしている子ども本来の生きる力が見えるのです。
赤ちゃんや子どもは免疫力や抵抗力がないから、病気をさせないようにしないと・・・と心配するお母さん方がたくさんいます。確かに、小さな子どもたちにはお母さん、お父さんの細やかな気配りが必要です。しかし、小児科医の立場から言えば、概して子どもたちはいろいろな病気をしていくことによって強くなっていくものです。病気をすることで、抵抗力を身につけていきます。子どもの病気は成長し強くなっていくためのプロセスなのです。
そして、今は苦しそうでも、子どもたちは自分で治す力をもっています。その力は大人のそれを凌ぐほどです。ですから、僕は医師として子どもを診るとき、「子どもが治る力を邪魔しないように」と、常に自分に言い聞かせます。余計な手出しをしてしまうと、せっかくの強くなる訓練の足をひっぱることになるからです。
そうは言っても、言葉の表現力を持たない子どもを育てているお母さん、お父さんにとって、子どもの病気はどうにも判断がつかず、不安が募るものです。大人がかかる病気と子どもがかかる病気は違いますし、大人と同じ病名でも症状のパターンが異なりますから、混乱しパニックになるのも当然です。病気はもちろん、ちょっとした体調の変化にも神経質になってしまうこともあるでしょう。特に、核家族化が進み、近くに育児のベテランであるおばあちゃんや相談できる相手がいないという状況では、なおさらです。
そんなとき、子どもたちの顔をよく見てみてください。言葉という伝達ツールをもっていなくても、子どもたちはちゃんと自分のメッセージを顔に出しています。僕が診療にあたるときも、まず子どもの顔をよく見ます。そうすると今までの経験から大体のことは分かります。むしろ、言葉という余計なものをもつ大人よりも、嘘がなくストレートで分かりやすいメッセージを送ってくれていると僕は思います。毎日、子どもたちと接しているご両親なら、いつもとどこがどんなふうに違うのか、冷静に見ればお分りになると思います。
子どもの顔をよく見て、それでも不安な場合は、どうぞ遠慮なくクリニックにいらしてください。ちょっとしたことでもかまいません。小児科医の仕事の半分は、病院に子どもを連れてくるお母さん、お父さんを安心させることだと思っています。僕の説明を聞いて、お母さん、お父さんが安心し、笑顔が戻ることが子どもにとっても何よりの薬なのです。
カルテの子どもたちの写真を眺めながら、そんなことを考えています。
※ホームページに紹介する文章もなかなか自分の事を書くのは難しいものです。そこで私のヨット仲間でライターの加藤隆子さんにお願いして取材をしてもらい、上記コメントをまとめてもらいました。自分が書くのとはちょっと違った視点で私を見てくださるのも良いと思います。